ウェズリー街電波発信塔アンテナ爆破作戦実行中に発生した作戦内容の行き違いについての報告
いいか! よーく俺の話を聞いておけよ。後で分からなくなっても知らんぞ。
まずチームαは、浜辺に上陸したら市街地まで突入。住民を制圧しろ。下手に騒ぎを拡大するんじゃない。その後は市街中央部の広場で待機だ。
チームβはγと一緒に発信塔まで向かえ! 警備を突破して発信塔まで着いたら外で待機だ。命令があるまで動くんじゃないぞ。敵が攻めてきたら絶対中に入れさせるな。
γ! お前達が今回最も重要な要素なんだからな! γはチームβと共に発信塔まで行き、その後塔内部に侵入。任務を遂行しろ。詳しい事については隊長に伝えてある。
γの任務が終了次第β、γはここへ引き返して来い。こちらに連絡が着次第αチームも撤退する。
よく覚えておけ! 誰も血を流してはいけない! これは聖戦だ! 一人として犠牲者を出なよ!
* * *
作戦報告書のページをめくる音だけが艦内に響いていた。俺はその間武者震い(と思われる)が止まらなかった。
何でって、今回が俺の初任務って事だ。一番人数が多いチームαの隊員だ。危険は……、発信塔に向かう奴らに比べればそうでもないかも知れない。チームβやγの連中は本当に命を賭けている。
まだ心の準備が出来ていなかった。いいや、時間が無限にあったって足りるわけが無い。制限時間があるからこそ、いつかこの船があの浜辺についてしまうからこそ俺は戦える気がした。
この言い方には語弊があるかも知れない。俺達は“戦う”が、“殺し”はしない。敵が襲い掛かってきても、絶対に殺してはいけない。これは暴動でも戦争でもなく、革命だ。
そして、足元が震える。鉄板の床が音を立てる。陸地が近づいてきたのだ。天井のでかいスピーカーがうなる。
『上陸まで十秒! 総員準備態勢を取れ!』
俺は弾かれるように立ち上がった。チームαの隊長、フィクスが俺達を一瞥した。そして船の出口へ向かう。全員が構えた。
船がウェズリー街の港へ、停泊ドックをそれて浜辺に乗り上げた。海辺に散らばる貝が船底で粉々になった。
それが四十分前の出来事だ!
何で俺は今発信塔への長い長い山道を登っている!?
俺はチームαだ。これはβやγの仕事であって、本来俺は市街地中央部の広場でじっと座っているはずなのに。坂道を駆け上がってふくらはぎの筋肉が限界まで張っていた。
ヤバいぞ。こんなこと作戦報告書に書いてなかった。対処法が分からない。俺は一応の訓練を受けた。でも実戦はゼロだ。実戦経験ゼロが、発信塔に? フザけてやがる!
どうすればいいんだ。最悪の場合俺が発信塔に乗り込むことになるのか?
発信塔へ向かったチームβとチームγ達との通信が途切れたのが少し前だ。住民をなんとか抑えたα隊員(俺)はβとγのために代わりの通信機を持って走っている。
そう大事では無いはずだ。βの隊員もγ隊員もみんな実戦を体験して経験を積み重ねたベテランの集まりだ。全滅や身柄を拘束された事は無いとしても、彼らと通信が途切れるのは誰も予想していなかった。
何が起こったんだ? 電波障害でも発生しているのだろうか、発信塔の内部に侵入したチームγの通信機が塔のアンテナから出る電波に邪魔されると言う事はあるのかもしれないが、その外で本部と連絡を取り続けているβまでが突然応答しなくなるのは明らかにおかしい。
俺は全力で山道の石畳を駆けていった。あと少しで発信塔に着く。すでに塔はかなり大きく見えてきていた。
発信塔に続く最後の道、石の階段を思い切り駆け上がる。階段を取り囲む有刺鉄線の棘が何度か戦闘服を切り裂こうとした。だが、もうすぐだ。発信塔の入口が見える──
そこに、チームβの姿は無かった。
……どういう事だ? チームの隊員はどこへ姿を消したのだろう。一瞬そう思ったが、思考はすぐに結論へ達した。
チームγの通信機が、電波障害で通信不能になったのだ! それを不審に思いβが──
おかしい。隊員の全てを発信塔に向かわせるわけが無いだろう。いや、しかし現に発信塔周囲には一人も隊員がいない。
俺は発信塔入口のドアを開けた。街では夕暮れの太陽が水平線に輝いていたが、発信塔の内部は真っ暗だ。懐中電灯を取り出し、塔の内部を照らした。
だがしかし懐中電灯が点かない! くそっ、何なんだ今日は? 神様はどこまでも俺をイジめるようだ。接触不良ではなく電池が切れているのだろう。振り回しても電球は全く反応を示さなかった。
これでは塔の内部が良く見えない……。しかし俺は、ゆっくりと発信塔の中を進んでいった。大体の構造は分かっていたし、一応チームα隊員も発信塔内部の地図は持っていた(ここじゃ暗くて読めない)。でもこの暗さでは見えるものも見えない。
俺は通信機を取り出して本部へ繋いだ。
「発信塔周辺にチームβの姿が無い! 発信塔内部に潜入するも明かりが点かず位置が良く──」
だめだ! 本部に通信が届かない! やはり発信塔では電波障害が発生するのだろうか? しょうがない、このまま進むしか無さそうだ……。
適当に歩き回り、少し目が暗闇に慣れてきた頃にハシゴを発見した。これで上階まで登っていける。俺はハシゴを登っていった。ちくしょう、ふくらはぎがつりそうだ……
二階には、発信アンテナの足場まで続くエレベーターがある。二階にもβやγ隊員の姿は見えなかった。こうなると、隊員達はアンテナにいるのか? なぜみんな作戦と違う動きをするんだろうか。
俺はエレベーターのボタンを押した。すると、遥か上方から金属音が響く。エレベーターは上まで昇っていたのだ。やはり全員アンテナで──何かしているのだろう。ようやくエレベーターの扉が開き、中に乗り込む。エレベーターは猛スピードで発信塔を昇っていった。
扉が開いた瞬間、強い風が吹き込む。ここは地上四十メートルだった。そもそも山の頂上にあるのだから、実際はさらにさらに高いはずだ。
俺は恐る恐る鉄骨の足場へ踏み出した。
「チームγ? β!」
声を上げたが返事は無く、俺の声は風にかき消された。さらに足を踏み出す。鉄骨の足場は発信塔頂上の巨大パラボラアンテナを取り囲むように設置しており、つまりは輪の形をしていた。足場を一周しても、誰も見付からない。一人も。
みんなどこへ行ったんだ? こんなことがあり得るはずが無い……。
それに、チームγの任務であるパラボラアンテナの爆破も行われていない。γは果たして本当にここへたどり着いたのか? 訳が分からない。
ここでは通信機が役に立たないし、俺ではアンテナを爆破することも出来ない! どうすればいい!? このままでは作戦が失敗だ! 俺達の完全なる負けで終わってしまう。
だがその時、俺の耳に風の音ではない、別の音が聞こえてきた。俺は咄嗟に音のする方へ振り向く。
見ると、謎の皿のような、円盤のようなものがこちらへ飛んで来ていた。大きさは一メートル近くある。円盤の上部には箱のようなものが取り付けられて──
そして俺はふと、遥か眼下へ目をやった。見ると山の中腹あたりに人間があつまっている。服装からして、俺達の仲間だ!
しかし、この円盤は一体……
よく見ると、円盤につけられた箱にはデジタル表示があった。数字は刻一刻と減っている。まさかこれは──
俺は発信塔から思わず飛び降りた。
作戦が違う! 爆弾を遠隔操作だと!? フザけるな!!
キーワード:「貝」「棘」「電池」「ページ」「円盤」
真夜中に突然この企画を思いつきました。いまさらながら公開して後悔します(
なんかこう、1時間というわけで色々と資料あつめとかする時間もとれず
こういうタイプの物語は避けたほうが無難でしたな……
作者の思考の浅さがすごくハッキリしてしまった! いやそれはすでに周知の事実か!
ちなみに、分かるひとは分かるストーリーのモデル。
名作ロールプレイングゲーム第8作目。