特別な日


 初夏の葦がなびくここは河原。
 私は真夜中だというのに家にも帰らず町をふらついていた。
 私立校の制服は目立つと思ったが、目立つ程人もいない。
 ここは車の通りも少なく、聞こえるのは鈴虫の声がほとんどだ。
 何故、私がこんな人気の少ない所に来ているのか。
 それは数時間前に遡る。


 私はその日、意を決して家を出た。
 今日こそは告白してみせる、と。
 見た目は普段を装っているが、内心はドキドキだ。
 先輩の机に、放課後校舎裏に来させる内容のメモを入れ、後は放課後告白するだけだ。
 ……だけなのに。
 私はこの日いつもより1時間も早く家を出た。
 先輩の教室も机の位置も把握している。
 第一関門はサクサククリアか。
 思った。しかし、教室には先客がいた。
「あら、おはよう。1年の子ね。何かご用かしら?」
 いたのは、先輩のクラスの学級委員長だ。
 日直か何かで早く来ていたらしい。
「い、いえ……」
 今日は無理だったか……。
「失礼します!」
 そう踵を返して教室から出ようとすると、
「待って」
 呼び止められる。
「貴女、××君に用があるんじゃなくて?」
 バレてる……。まだ先輩の机に近づいてもないのに。
「……どうして」
「貴女、この教室を通る度に××君のこと見てるんですもの」
 委員長は微笑みこういった。
「いいわ。私が許可しましょう。どうぞがんばってね」
 私は深々と会釈をして、先輩の机にメモを突っ込み、ほとんど息継ぎ無しで自分の教室まで戻った。


 放課後。
 先輩に告白した。
 何の飾りっ気もない。
 ただ、好きです、と。
 そして――。


 私は河原を歩いていた。
 きっと何かが原因だったとか、何が駄目だったとかそういうんじゃない。
 単にタイミングが悪かっただけなのだ。
 そこは納得出来る。
 でも、別のどこかか納得出来ないのだろう。
 胸の内に黒いモヤがわだかまって、モヤは蔦のように私の心臓を這い、締め付ける。
 気付けば私の知らない所まで来ていた。
 車が二台通るくらいの小さな橋だ。
 河原沿いに歩いていたから橋にはいくつか遭遇していたが、何故かこの橋は渡ってみたいと思った。
「あら、今日は何の日かしら」
 橋の反対側には先輩のクラスの学級委員長が、自転車を押してこちらに向かってくる。
「せ、先輩はどうして?」
「塾の帰りよ。貴女こそどうしたの? あら、泣いているの?」
「え? 私泣いてなんか……」
「でも、涙の後があるわよ」
 私は頬を拭った。
 確かに、涙の後がカサカサとしていた。
「親は心配しないの?」
「……一人暮らしですから」
「そう……、うちに来る?」
「え? でも……」
「私も、一人なのよ。それに明日は休日だし……今日はうちに泊まっていきなさい」
「……いいんですか?」
 私の中では何かが込み上げてきて、それは涙となって私の頬を再度濡らした。


「貴女、よくそんなに泣けるわね……。少し羨ましいわ」
 先輩の部屋につくと、いまだに涙の止まらない私に言った。
 ハンカチで拭って貰うと、自然と止まる。
 先輩は夕食も風呂も、さらには寝間着まで用意してくれた。
 私は、すっかり彼女に馴染んでしまう。
「貴女、彼にフられたのね」
「そういうダイレクトな言い方は無いと思います」
「あら、そういうものなの?」
「……もしかして、先輩、恋愛経験ゼロ?」
「そうねぇ、私としては、今は必要ないと思うの。何度か言い寄ってくる殿方はいたけども」
「はは、先輩はフる方ですか……」
「それより貴女、髪が濡れていてよ」
 私は、濡れた髪を乾かして貰った。
 なんだか……。
 なんだか、今は加護を受けているようだけど、この人は私が守ってあげたい。
 そう、感じるのだった。
 何故だろう。


 河原の水は塩っぽくて、眠っている私と先輩に涼しい潮風を運んでくれる。
 きっと、今日のこの出会いは、私にとっても、先輩にとっても、特別な日になるのだろう。
 「あら、今日は何の日かしら」
 先輩がそういったあの橋のある河原には、月光がさして。
 その光景は、きっと、今日にしか無かったのだろう。










キーワード:「橋」「月光」「水」「葦」「自転車」




以下はすらとこの物語の作者さんである狐火光陰さんとの対談です


狐火光陰: どうも狐火です。
すら  : どうもすらです。 さてさて
狐火光陰: 今回はマサ君と三人での企画でしたね
すら  : ですですね 今作の出来は自分で見ていかがでしょう
狐火光陰: そうですねー やはり前に書いた「12人の彼女」が良作すぎたような感じで、
すら  : あれはハッピーでしたね
狐火光陰: 今回のは印象が薄い感じですw
すら  : 今回もきれーなお話ですけどね
狐火光陰: そうですね、 いつもとは一風変わった感じで 百合にしたかったけど、無理に自重したらこんなになってしまったのです。
すら  : 男女で進めるよりもステキな展開じゃあないですかッ
狐火光陰: ですよねっ! まあ、今回はマサからのキーワードで 普段はすらさんのほぼ無茶振りなキーワードに比べたら 難易度としてはやさしかったですかね
すら  : これは失礼ッ マサさんはがんばりましたね
狐火光陰: ですねw最後の2,3行が神展開でした
すら  : しまったマサさんの話になってきているッッ
狐火光陰: えー最後にこちらから質問します


狐火光陰: 一体このコラム的なコレ。一体何人の人が読んでるのでしょう?
すら  : A.2人くらい
狐: 現にね・・・w
すら  : TRUTHWAYはそーいうサイトなのです


以上、後書きでした。お疲れ様でした之助
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