ミーシャ
「ん・・・むーん」
誰かに起こされたような気がして、ミーシャは重たいまぶたをゆっくり開いた。
ベッドの向かいにある柱時計は夜中の3時を指している。
夢でも見ていたのだろうか、そう考えたミーシャはふと水を飲みにきしむ階段を下りた。
三日月の青白い光に照らされた空気はとても心地良い涼しい風となって、寝起きのミーシャを外側から癒やしてくれた。
その冷たい風は、ミーシャの飲む水も美味しく冷やし、結果として涼風はミーシャの内と外の双方からの癒しを与えた。
喉も潤った事ですし、もう一眠りしましょうか。と枕に頭を沈め薄い毛布を掛けたその時だった。
「うあ、・・・あ」
身体の浮遊感。
浮く事自体はミーシャにとって何ら不思議ではない。
この魔法の存在する世界では、自分の身体を浮かせて移動する。なんて事は時計の読み方よりも基本中の基本だった。
しかし、ミーシャは自分の意志では浮いていない。
学生時代、実習でペアになった人に誤って浮かされた事があった。ミーシャはその時と同じ、何とも言えぬ不快感に襲われた。嘔吐を催した様に気分が悪くなるのだ。
「だっ、誰だ?!」
目はとっくに冴えきってしまっていた。
ミーシャは落ち着いて深呼吸し、何事か呟いた。
すると、いままで見えなかった、ものが見え始めた。
ミーシャの身体にスライムのような物体がフォークでスパデティを絡み取るようにして持ち上げているのだ。
それは、言葉を使った魔術。呪言だ。
今使ったのは「解析」とよばれる呪言で、魔法を使った痕跡などを見付けるのに使う。
次の瞬間ミーシャの身体は、そのスライムごと何処か虚空へ飛ばされていた。
そこは今までいたところより遙に寒かった。
夏用の薄いパジャマ姿だったので尚更だ。
「おはよう。よくきたね」
誰かの声が聞こえた。
スライムはいつの間にか消えていた。
「今何時だとおもってるんですか。それに、私は連れてこられたんです」
それに、あなたは誰ですか? そう聞く前に、ミーシャの身体は凍り付いた。
寒さ故ではない。
目の前の圧倒的は存在に強ばったのだ。
目の前のどす黒い人型。
辺りにはだれもいない。
しかし、そこには確かに一の形をしたものが存在する。
人が目の前にいるのに、まるで気配がいない。
ミーシャにはそれが闇色をした一突きで神をも消し飛ばす事の出来る、巨大な拳に見えた――。
やつが放った魔法は、天井に直撃した。大きな爆発と恐ろしい熱が巻き起こる。
君の背後で壁が崩れる音がした。大きな梁が落ちてきて床のタイルが粉々になる。
部屋は火炎に包まれていた。激しい炎によって崩壊は近い。
君は煙を避けようと身をかがめた。相手も同じことをしている。どちらが先に動くか──何にせよこのままでは二人とも焼け死んでしまうだろう。
ふと、相手の杖が空中に四角を描いた。燃え盛る炎が杖の軌跡の通りに切り取られ、空中に浮かぶ。炎は風に吹かれるハンケチのように揺らめいていた。
四角い炎が収縮をはじめ、一点に集まる。杖が空を弾いた瞬間火の玉となったそれはこちらへ向かって飛んできた。
君は慌てて横に飛び炎をかわす。
放たれた炎は、あの首輪に直撃していた。台座の上で首輪が激しく燃え出す。もしかしたらやつは君ではなくこの首輪を狙っていたのかもしれない。
「首輪を取りに行くか? ミーシャ!」
やつは声を上げた。君はやつに激しい憎悪を感じながらも首輪に目を向ける。あれを取りに行けば確実に狙われる。
君はゆっくりと立ち上がり杖を上へ向けた。
そして魔法を放つ。杖の先端に衝撃が走り、部屋の天井に小さな爆発が起こった。火炎に焼かれたうえに衝撃を与えられたことで、次々と天井は崩壊を始める。
君は咄嗟に後ろへ向かって走り出した。崩れ落ちたがれきの向こうから、容赦なく火球が飛んでくる。
部屋で爆風が巻き起こり首輪が台座から吹き飛ぶ。君は慌てて杖を首輪に向けた。背後ではやつが大声で叫んでいる。やつは炎を吹き飛ばしこちらへ向かってきた。
君は必死で空中の首輪を掴んだ。時間が延滞しているように感じられる。やつの杖が衝撃波を放つ。
地面に着地すると同時に君は自らの首に首輪をつけた。
衝撃波が君の目前でかき消される。
それだけではない。炎の熱も煙も、すべてが君の周囲で弾かれていた。
君は勝ち誇ったかのように言った。
「私の勝利。君が焼け死ぬのを待っていよう」
tuduku
前編キーワード 「フォーク」「時計」「寒い」「拳」「誰もいない」
後編キーワード 「タイル」「火炎」「憎悪」「首輪」「ハンケチ」
またしても真夜中にこの企画をやろうとした際。
1時間かけてかくのはめんどくさいぜ! ということで
狐火さんと2人がかりの番外編。
「30分で0.5作! 2人がかりの前後編を書こう!」の企画が発足しました。
前後編でいろいろ合わせなくちゃいけないこともあるので、
・物語のテーマ
・主人公の名前
は、打ち合わせさせてもらいました。
前編・狐火光陰さん 後編・すら