はね


 半分の月が輝く中、俺はヤツに出会った。
 月明かりに照らされたヤツは、夜でもわかる白色のワンピースを着ていたが、その襟元や裾は泥で汚れ、とてもではないが綺麗な姿では無かった。


「君は誰だ?」


 沈黙を破ったのは、俺の声だった。怪しい姿の彼女に向かって、続けて言った。


「君は誰だ。俺に何か用でもあるのか?」


 彼女は何も話そうとはしなかった。だが、彼女の目は先程から変わらずに、俺のほうを凝視していた。それもその目は何かを訴えるわけでもなく、ただ俺の顔の一点を瞬きすらせずに見ているだけであった。
 薄気味悪くなった俺は、気分を紛らわせるため、空を見上げた。都心に近い町にもかかわらず、空は淡く輝く星々で埋め尽くされていた。


「星が綺麗。都会にしてはよく見えるものね」


 唐突に彼女が話し出したのを聞き、先程の疑問を思い出した。
 何故、コイツは会社帰りの俺を引き留め、こんな路地裏に連れ出したのか。好奇心とはいえ、この女についてきた事をとても後悔した。
 少しでも早くこの妙な状況から逃げ出そうと、先程の質問をもう一度言った。


「何で俺を連れ出したんだ。用が無いなら帰るぞ」


「いや、実はあなたと星座が見たくてね」


 彼女は呟き、路地に置いてあったダンボール箱を、椅子のようにして座った。隣には同じようにもう1つ置かれている。どうやら隣に座れということらしい。
 半ば呆れた俺を強引に座らせ、続けた。


「ほら、あれが火星。時期によって月との位置関係が大きく変わるの。月は明日には半月になって−−」


 星談義を始めた男にいい加減腹が立ってきた俺は、ヤツの話を無視した。


 −−この女はなんなんだ。星座が見たくてね? 冗談じゃない。俺は早く帰りたいんだ。こんなヤツにいつまでも関わっているなんてまっぴら御免だ。−−


「それで。って聞いてますか? ここからがクライマックスなんですよ。オリオンはサソリに刺されて−−」


「もういいだろ! 俺は帰りたいんだ。誰だかわからないヤツに引き留められて、話をするほど暇じゃないんだ」


 そう言い放つと、さすがに落ち込んだのか、もうそれ以上話すことは無かった。
 気まずい沈黙が続く中、彼女は風に流されてほとんど聞こえないような小さな声で呟いた。


「あなたの愛は偽者だったのね」


「?」


何のことかわからない俺は、振り向いて彼女に問いただそうとした。だが、そこには既に彼女はいなかった。
そこにはただ、寂しく置かれたダンボールが二つと、数枚の純白の羽が、転がっているだけであった。










キーワード:「明日」「段ボール」「星座」「クライマックス」「偽物」




初めての一時間小説ということもあり、だいぶぶっ飛んだ内容になっていますね。
いつもは一ヶ月とか長い時間をかけて、何度も推敲なんかをして完成させているので、どうしてもこういったクオリティに。




なんか途中で『彼女』が『男』に変わってますし…。
実は途中まで男同士のむさ苦しい会話だったのです。あらら。




作者:マサ さん
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