原稿用紙一枚に小説を書こう!
長編ともなると原稿用紙数百枚に及ぶ小説でございますが、
もちろん短いショートストーリーもあります。
ならば極限(?)まで短くしてみよう!
原稿用紙一枚、400文字に物語を詰め込め!
話をまとめられるか、私が一番苦手な作業だったり……
「壁」2009/04/29/Wed.
壁が生まれたのは、二週間ほど前の話だ。これは推測の話でしかないが。初めは誰一人として気付かなかったのだ。今でさえ小さな陽炎に見える。
現在壁は半マイルくらいの長さにまで達している。正確な大きさは測定不能だ。壁は常に拡張を続けているし、その両端は低いうなりを上げながら電子を発し空間を切断していく。例えるならば空気を切り裂く雷撃とでも言うべきか。壁は静かに、ゆっくりとすべてを切り裂いているのだ。恐らく壁に厚みはほとんどない。壁の出現に恐れをなした者達が何人かグラスゴーを脱出した時に壁の側面を見ようとしたが、それは不可能に近かったという。正しく陽炎のような巨壁なのである。
この壁はどこまで広がっていくのだろうか? 真っ直ぐ緯線に沿って地球を横断するのかそれとも湾曲しこのイギリスを切り取ってしまうのか。
寝ている間にも低い電子のうなりは響く。
「積み荷降ろしの日」2009/03/23/Mon.
積み荷に何だかわけのわからないものが紛れ込んでいた。
「なあ、あれは何だい?」
「ああ、あれはマクガフィンだよ」
そう言って同僚は謎の物体を指さした。
「マクガフィンって何だ?」
「スコットランドでライオンを狩るための道具だよ」
「スコットランドにライオンはいないだろう」
と、私は言った。
「じゃああれはマクガフィンじゃないな」
「あれがマクガフィンじゃないならあれは一体何だ?」
「てっきりマクガフィンだと思ったけど違うみたいだ」
「ならマクガフィンって何だ?」
「スコットランドでライオンを狩るための道具だよ」
「だからスコットランドにライオンは……」
「なあ、そろそろ仕事に戻らないか」
「豪雨の日」2009/03/23/Mon.
豪雨による洪水で町が水没してしまった。
私の家も沈んだが都合の良いことにアウトドアで使うゴムボートが流れてきた。
ゴムボートに乗ってなんとか安全な場所へ辿り着くと焚き火の跡とライターが落ちていたので服を乾かし暖まることが出来た。
遠くに救助船を見つけたので急いで走っていくと足を滑らせて川に落ちた。流されてしまったが偶然掴まれそうな大木に引っかかったので一命を取り留めた。陸に這いあがったところに車が乗り捨ててあり運良くキーもついていたので運転して近くの避難所へ向かった。が、その途中道路が冠水していて進めず、やむなく車を降りた。
少し引き返すと私有の物置が開け放してあった。毛布があったので拝借してなんとか暖を取って空を見上げていたところで救助ヘリに発見され救出された。
神よ、ここまで都合良く事が運ぶのなら、いっそ洪水など起こさずにいて欲しかった。
「爪痕」2009/03/02/Mon.
恋人たちの休日の午後三時にて。
ボクたちを含めて映画館には四人しかいなかった。しかもボクと彼女は前列で、残りは最後列、その上ご老体ときた。
映画が始まって──極限状態におかれて男女が恋に落ちていく……とかいうどこかで聞いたことがある物語だ──しばらしくて、ボクは暗闇の中で彼女の横顔を眺めていた。
知らずのうちにボクは彼女の肩に手を置き、二人は向き合っていた。主人公とヒロインはほのか雪の中抱きしめあっていた。
彼女に口づけた。彼女は少し抵抗して、ボクの手の甲に爪を立てて引っ掻いた。長い爪が皮膚に突き刺さった。ささやかな攻撃だ。
その後しばらくボクは彼女の不機嫌そうな表情を見ていた。怒らせてしまったかと思った。けれど映画のクライマックスで、
「手が冷たい」と言って彼女はボクの手を握って優しく力を込めてきた。
手は、ぜんぜん冷たくなんかなかった。
「光速の男」2008/10/16/Thu.
大変な知らせが届いた。悪質なイタズラだろうか? それにしてもとんでもない話だ。
「量子学研究所へ。
私ウコーバル=スペースフラットマンは、自宅寝室での実験にて、照明のスイッチをオフにし部屋が暗くなるまでに2m離れたベッドに飛び込む事に成功致しました。ぜひ一度私の家を訪ねて下さい。ご覧に入れましょう。
住所と電話番号は……」
私は一度彼に電話をかけてみたが、やはり自分の目で確かめてくれ、と言われてしまった。もしや本当にそんなことが……?
有り得ない。物体が光速を超えるという事は無限の質量が生まれるという事だ。絶対零度のさらに下、マイナスケルビンの世界にもそれが言える。
だが確かめない訳にはいくまい。私は彼の家を訪ねた。時刻は夜。すると彼は言った。
「あ、今は無理だよ。なんてったってあの手紙は昼間の話だからねぇ……」
「エンド・オブ・ザ・ロード」2008/8/13/Wed.
消滅へのカウントダウンは迫ってきていた。もう残された時間は少ない。早くここから脱出しなくては……
彼はあの研究員を連れてくるといった。果たして間に合うだろうか。
もう街は壊滅状態だ。そこら中に死体が転がっている。軍隊が設置した地雷も大量に放置されたままだ。この街ももうすぐ消えて無くなってしまうのだから構う者などいないのだろうが。
彼は間に合うだろうか。無事にあの女性を連れて戻ってくるだろうか。
私たちもみんな戦いで傷を負っているし、あのウィルスに感染してしまっている。
トラックの荷台に乗り込んで、私はひたすら彼を待ち続けていた。
私が生まれた街だ。
夜明けと共に軍事ミサイルで爆撃される。それまでに街から脱出できればいいが。
目を閉じた。長き道がもうすぐ終わる。
「生きのびたやつ」2008/6/24/Tue.
いやー、この前はヒドイ目に遭いましたよ。
夜中にちょっとタバコを切らしちゃったんで買いに行ったわけですね。で、こう夜道を歩いてたわけなんですけども。
すると目の前の電柱から変な唸り声が聞こえてきたんです。
何かなーと思って見るとなんと怪しい黒マントの男が電柱の陰に隠れてましていきなり私に襲い掛かってきたんですよ!
見ると手には変な注射器を持ってるじゃありませんか。
これは絶対ヤバいやつだなーと思って逃げようかと思ったんですけど腕をつかまれてしまいましてね。
でも私も必死ですからそのマント男の顔面に右フックをかましたんです。
するとその男一発で気絶しちゃいまして!
私はタバコも買わずに慌ててそこから逃げ出したんですけどね。
いやー、あれは怖かったですよ。
「業火」2008/4/7/Mon.
暑い。
ここはたまらなく暑いようだ。
誰かが早く出してくれないだろうか。
こんな所に閉じ込められるなんてたまったもんじゃないぞ。だんだん皮膚が焼けてきているような気もする。
このままここから出られなかったら、私はもしかして黒焦げになって死んでしまうのだろうか? そんな事許されないぞ。
とにかく、誰かこの扉を開けてくれないだろうか。
自力でこれを開けられたのならすぐにでもこの熱地獄を飛び出してやるのに……
だめだ、本格的に全身が焼け始めた。
このままでは私は……
暑い! いいやとてつもなく熱いぞ! 早く扉を開けてここから出せ!
そう叫ぼうとすると突然扉が開き──
「メロンパンが焼けたよ。一個百五十円だ」
やがて、子供達は私を手に取りそして口へ
「ベッカムの四季」2008/2/26/Tue.作・無敵さん
ベッカムの四季は始まった。
春になりベッカムはひな祭りを楽しみにしていました。「なのに!」ひな祭りは寝過ごしました。「なぜかって?」「うんとね〜」と言いました。なぜなら彼は昨晩接待をして二日酔いだったからです。
夏になりベッカムは海でのスイカ割り大会を楽しみにしてました。やっとベッカムの番が来ました。ベッカムは目隠しをし未知のスイカ割りに挑みました。次の瞬間「ガッタン」と音がしました。ベッカムは「割った」と思ったら、なんとそれは隣の山田さんでした。山田は何か言いながら帰った。
秋になりベッカムは栗拾いに行った。栗は木の上から落ちて攻撃します。ベッカムは栗を拾いかじってやりました。
冬は雪合戦をした。ベッカム隊と山田の勝負です。ベッカムは山田に攻撃をしました。山田は攻撃をかわし、ベッカム目掛けて雪だるまを投げた。ベッカムはかわし勝ちました。
※管理人の友達が書いた文章です。うーんカオス
「神の側近による手記」2008/2/26/Tue.
「お前の願いを、一つだけ叶えてあげよう」
と、神様は言いました。目の前の幸運な男は答えます。
「何でも願いが叶うのですか?」
「ただし、一つだけだからよく考えなさい」
幸運な男は悩みました。叶えたい願いはたくさんあります。
世界一の金持ちになろうか、誰よりも力が強くなるか、永遠の命を手に入れるか、国の女性すべてと結婚するか、未来を見る超能力を授かるか、どの学者より頭がよくなるか、素晴しい地位を得るのか、願い事をさらに十こ叶えてもらうようにするか、さもなくば自分が願い事を叶える力を手に入れるか──。
幸運な男は悩みに悩みました。見かねた神様は男に言います。
「さて、そろそろ願いは決まったか?」
「い、いえ! もう少し待ってください!」
神様は数秒間口を閉じられました。
「…………待った。これで願いは叶ったな」
「呪い」2008/2/22/fri.
──今日、ついにあの音が聞こえてきた。
地の底から響くような、不気味で重苦しい音が耳に飛び込んだ瞬間に、私は全身が凍りつくような恐怖を感じる。
人間を絶望へおとしいれ、狂気へ引きずり込もうとする。悪夢のような音色は、魔物がささやく呪いの言葉に聞こえた。
すべてを無に帰す、恐ろしい力をもったその音を止められるものは何も無い。それを聞けば最後、私はただ破滅を待っているほかないのだ。
暗闇から聞こえる謎の音色。
それが鳴り止んだ時に、私は初めて破滅を知る。運命によってもたらされた結果からは永遠に逃れることなどできない。
私はただ、無力に涙を流すしかなかった。
「まことにざんねんですが ぼうけんのしょ1はきえてしまいました」
これほど恐ろしい音は無い。ドラクエの、データが消えた時ほど恐ろしいことは……
「bath room」2007/1/19/fri.
背後で階段を下りる音がした。足を速めようとしたが、その途端に左肺が激しく痛む。
暗く、裸の電球が八メートル置きに設置されているだけの地下通路は長く曲がりくねっている。私は通路の突き当たりを左折した。
あの男は私のどれほど後方にいるのだろう。振り返る勇気は私に無い。咳をすると喉の奥で血の味が広がった。 行き止まりだ。
いや違う。鉄製の巨大なドアがそこにあった。私は残る力全てを腕に込めドアを押した。
部屋に飛び込み急いでドアを押し戻す。
辺りを見回すとそこは古びたバスルーム。床には一体の死体が倒れていた。
私は床に座り込んだ。もう体も精神も限界に達している。待つのは死体と同じ運命か。
扉の向こうから男の声がした。追いつかれてしまったか。もう逃げ道は存在しない。
私は床に落ちていたガラスの破片を手に取った。呼吸は荒く、そしてひどく胸が痛い。
重い、金属の扉が、ゆっくりと開いた。
「DEAD VISION」2007/1/19/fri.
地下鉄車両の連結部から、冷たい風が吹き込んでくる。私は読んでいた本を閉じた。
電車が突然大きく傾いた。思わずよろめき、私は床に倒れる。電車が脱線したのだ。
車内に響く悲鳴の中、電車は九十度横転し、レールの上を滑っていく。
私は必死に手すりにしがみついた。後ろの方では人が次々を車外に投げ出されていく。
再び電車が傾き出した。バランスを崩した一人の男が窓ガラスを突き破り、跳ね飛ばされる。窓が一面深紅に染まった。
電車は完全に上下が逆になると、地下鉄構内の壁を破壊し、そして止まった。
私は電車の外に投げ出されていた。周りには文字通りバラバラの死体が転がっている。
私は立ち上がろうとした。しかし、右足に鉄片が突き刺さっている。足が動かない。
その時、後続車両が私に突っ込んできた。
そこで目が覚めた。冷たい風が吹き抜ける。私が戸惑う間にも電車は大きく傾き出した。