一つだけの約束


「ハァハァ・・・・・・」
薄暗い街の中で、僕は一人の苦しんでいる少女を抱えていた。


「わ・・・・・・私はもうダメ・・・・・・先に行って攫われた人を救って・・・・・・!」
血みどろの彼女は息絶え絶えで僕に話しかけてくる。


「いいえ、違います!あなたはまだ死なない!死んではいけない!」
僕は彼女にそういった。
根拠が無いとはあながち言い切れない。なぜなら僕は、医者の息子だから・・・・・・


しかし、そう永くは持たないことも僕は感じていた・・・・・・。
出血多量のコンクリートを見て、僕は悟っているのだ。


しかし、彼女に悟られてはいけない・・・・・・彼女にはまだやるべきことが沢山ある。


【緊急!緊急!爆破装置作動まで、あと45分!】


もう15分も!?


僕は焦った。この爆破装置はおよそ20kmの範囲を爆風に巻き込む。


バイクも車も無いこの街の片隅、しかも負傷者が一人いる中で、45分で歩いて20kmなど、到底無理に近い。


僕は奴の言葉を思い出した・・・・・・そう、彼女を出血多量に追い込んだ奴だ・・・・・・


スピードに翻弄されて、今まで無敵の強さを誇っていた彼女はなかなか攻撃できずにいた。
そんな中、奴は一瞬にして背後に回り・・・・・・


ボン!
彼女の背中で爆発音がした。


「けけけ・・・・・・爆弾魔(ボマー)ディーの特製爆弾だ。肉を切って血だけを吹きださせる。まさに芸術じゃないか!」
ディーは不敵な笑みを浮かべる。マズい、今度は僕だ・・・・・・。


僕より圧倒的に戦闘で強かった彼女でさえ負けたのだ。僕がかなうわけが無い。


ディーは僕を見ると、
「君は、戦闘タイプじゃあないね・・・・・・このまま倒しちゃうのもな〜・・・・・・そうだ!人は皆居ないし、僕の巨大爆弾の実験もできるな!」


ディーはそういうと、なにやらトーテムポール型の物を取り出した。よく見ると、1:00:00 の文字。コレは・・・・・・


「そう、お察しの通り爆弾さ。但し、20km四方だけどな。1時間じゃ足りないだろう。脱出するのは。」
僕は初めて無力感を感じた。僕はこんなお荷物だったんだ・・・・・・彼女に謝らないと・・・・・・!


「もしかしたら、そこの怪我人を置いて、必死で走れば間に合うかもよ〜。それが嫌なら此処で2人ともオサラバだ!じゃあ頑張って頂戴♪」
ディーはそういうと、あっという間に深い闇の中へと消えていった・・・・・・


奴の言葉に多分偽りはないだろう。確かに20kmを爆発させる火薬量はある。


僕は、彼女を見つめた・・・・・・。僕さえ居なければ・・・・・・彼女はこんな目にあわなかった・・・・・・。
「いいえ、違うわ・・・・・・あなた一人だったら、私は殺されてた・・・・・・あなたが居たから、今の私がいるのよ・・・・・・」
彼女はそういうと、口から血を吐いた。


「大丈夫か?しっかりしろ!」
僕は必死でそう叫ぶと、彼女をおぶった。


「え、何?」
彼女は突然のことに驚いた。


「僕が君を・・・・・・おぶって20km歩く!」
僕はそういうと薄暗い街の中を走っていく。


「何を考えているの!あなただけでは・・・・・・無理よ!私を捨てなさい!そうすればあなただけでも」


「ダメだ!二人で脱出するんだ!僕だけ生きても、人々は救えない!」


【緊急!緊急!爆破装置作動まであと40分!】


「もう迷ってる暇はない!急ごう!」


僕はそういうと、走り続けた。必死で。死に物狂いで。


「・・・・・・ありがとう。」
彼女はそれを言ったっきり、黙り込んでしまった。アレだけの傷だ。多分眠っているのだろう。


30分ぐらい走っただろうか・・・・・・
念のためにあらかじめ設定してあった、距離計を見る。


「21,39km・・・・・・やった・・・・・・!やったぞ!」
僕はヘトヘトになりながら、彼女をおろし、横たわらせて、報告した。


「やったよ!どうやら爆破圏外に来たようだ!」


彼女はそれを聞いて、
「そ・・・・・・そう・・・・・・ありが・・・・・・とう・・・・・・ちょっと・・・・・・水をくれない・・・・・・かしら・・・・・・」
無理も無い。あれだけ出血してたら喉が渇いただろう。


「わかった」
僕はそういうと彼女を置いて近くの湖から水を汲みにいく。


うん。どうやらこの水は飲めるようだ。
僕は確信すると、カップに水を汲み、彼女に持っていった。


「んっんっ・・・・・・おいしい・・・・・・ありがとう」
彼女は嬉しそうな顔で僕を見てきた。


彼女は血を吐いた。むせながら、こう言って来た
「もう私は永くない・・・・・・最後に一つだけ・・・・・・聞いて」


僕は言った。
「諦めちゃダメだ!まだ君は生きていられる!」


僕の言葉に彼女は首を横に振った。
「もういいの・・・・・・わかってるのよ。血の出すぎでもうすぐ死ぬってことぐらい・・・・・・」
彼女はそういうと辛いはずの体を起こして、僕の耳元で囁いてきた。


「・・・・・・わかった。必ず伝えよう。」
僕は頷くと彼女を横にしてあげた。


「・・・・・・あと、私の名を言ってなかったわね・・・・・・私は・・・・・・」






数年後。
僕は山の中で修行をしている。
もう誰も不幸にさせないために・・・・・・。


僕は空を見上げてこう言った。
「あれから毎日、君のお母さんに君の旅の記録を送っているよ。約束は守っているからね。」


僕は君の勇敢さと名前を一生忘れない・・・・・・スカーレット・・・・・・。










キーワード:「いいえ、違います」「一時間じゃ足りない」「喉が渇いた」「最後に一つだけ」「出血多量」



裂空燕さんの作品です。
なんだこのいー話は!
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